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通信Vol. 600/99/05/19

医学面から見たレース中の補給


>2、医学面から見たレース中の補給すべき物質とその量
>についてなにかヒントを頂けないでしょうか?

>2、についてお医者さん(3人)に聞いたことがありますが開口一番「ス
>ポーツドリンクを飲みなさい!」「水分を補給しなさい!」。
>小生「・・・」でした。

専門外なので突っ込んだことは言えませんが、ポイントは以下の5点でしょう。

1,水分はどのくらいの量を補給すればよいか?

…まず、レース中に我々はどのくらいの汗をかくのでしょう?個人差もある
ので、自分で実際にいくつかの気象条件下で測ってみるのが一番手っ取り早
いかもしれません(ただし安全のため、全く無補給で行う場合は1時間程度
に抑えておくことをお薦めします)。私(HT180cm、BW70kg)の場合、
気温25度、湿度50%下で1時間 HRmax60%走をした場合で、約1kgの体
重減少になります。一般的には、炎天下でランニングをした場合、1時間に
約1〜1.5リットルの水分が失われるといわれています。また同じ時間当た
りの喪失量は通常、RUN>BIKE>SWIMで
す。

それでは、この失われた水分を全て補うのが良いのでしょうか?実際のレー
スに出て見れば分かりますが、1時間に約1〜1.5リットルの水分を補給する
のはなかなか困難で、まず間違いなくこれより少なくなります。人間にはあ
る程度の水分喪失に対して体内の恒常性を一定に保つ力がありますが、この
限界を越えた場合、「脱水症」に陥ります。

最も軽症の脱水症で、体重の3〜4%の水分喪失で起こるとされています。
私の場合で2.1〜2.8リットルです。水分喪失をこれ以下に抑えておけば脱
水症は防げるということになります。
 
以上のことから私の薦める水分補給量は、「レースおよび練習中の体重減少
を最大でも1〜2%程度にとどめる量」です。
 
私は実際には、ショートでは競技時間がせいぜい2〜3時間なので、
SWIM30分〜直前に小ペットボトル1本(500ml)、BIKEの間にボトル2
本弱(約800〜1000ml)、 RUNでコップ0.5〜1杯×3〜4回(エイドの数
が少ない場合は一回当たりの量を無理のない範囲で多くする)としていま
す。これでtotal約1.5〜1.8リットルです。多少足らないくらいになります
が、上記「 」の範囲内に抑えられます。これをベースに気候によって調節
しています。毎年暑いことで有名な長良川に昨年出たときもこれでいきまし
たが、特に問題なく完走しました。
 
ロングの場合はこれに補給食の水分も加わってきますが、意識して上記
ショートの摂取ペースより多く心がけていました。
 
また、吸収効率を考え、水分は低張性である必要があります。2.5%糖液は
10%糖液に比べ、約3倍のスピードで吸収されることが示されています。一
般に市販されているスポーツドリンクでも濃いぐらいですので、2〜3倍希
釈が適当でしょうか。
 
この摂取量を多いと感じる方もいらっしゃると思います。トップレベルの選
手ではこれより少なくても対応できるのでしょうが、安全に競技を行うため
には一般のアスリートは最低でも上記摂取量を守るべきでしょう。

2.ミネラルはどのくらい補給すればよいか?

…レース中に汗をかくことにより、水分と一緒に主に喪失するミネラルは塩
化ナトリウム(つまり塩)です。一般的に1リットルの汗の中には約2-3g
の塩化ナトリウムが含まれるといわれています(これも個人差あり)。
 
上記1の水分を全て「ただの水」で摂取した場合、競技が長時間になればな
るほど多くの塩化ナトリウムを喪失します。水は十分に補給しているにもか
かわらず体内ではNaの喪失により細胞外液の浸透圧が低下し、細胞外液の
細胞内腔への移動が起こり、細胞外液量の低下が起こります。この結果、血
液濃縮が起き、循環血流量が低下し、血圧、腎血流量の低下、乏尿…と、
Na欠乏による脱水症を引き起こすのです。これがいわゆる「水中毒」とい
う状態です。具体例は下記「スポーツの栄養・食事学」にも何例か示されて
います。一部引用しますと、
 
〜37歳男性の場合(75kg、フルマラソンベスト3時間48分)1週に
60-80km走り込むトレーニングを3カ月だけ行って88kmウルトラマラソ
ンに参加し、10時間10分で完走しました。

レース中はコーラの水割りを頻繁に飲用し、摂取量は総計12リットル、食
塩摂取量 2.4gと推定されました。

ところで彼は、最後の1.5時間あたりで脚に軽いけいれんを起こしたので体
液のミネラルバランスが崩れているのではと自己診断し、ミネラル入りのド
リンクを飲みました。レース直後には気分良く500mlの紅茶と70mlのビー
ルを飲みました。その5時間後、彼は筋肉の強いけいれんを起こし、断続的
に意識が喪失するようになり、病院に運ばれました。

血液検査の結果、低ナトリウム-低塩素血症(Na欠乏による脱水症)と診断
され、ブドウ糖入りの生理的食塩水の点滴を一晩中受けました。その後、尿
を多量に排出して翌日には血中ミネラルが正常化しました。〜
 
以上です。例えば、フラフラになりながらゴールするシーンは確かに感動を
呼び、マスコミ受けするかもしれませんが、セルフマネジメントが出来な
かったという点で、厳しい言い方ですが競技者としては失格であると考えま
す。

ショートであればNa喪失量は競技時間に比例して少ないので、あまり気に
する必要はないかもしれませんが、ロングでは必ずNaの補給が必要です。

私のお薦めは日本の誇る「梅干し」です。(ね、平本さん)小さめの大きさ
で、だいたい3粒で10g(内、果肉部8g)ですが、これで約1.6gの食塩
(650mgのNa)に相当する塩分が摂取できます。スポーツドリンクにもNa
は含まれていますので、上記の喪失量を全て補充しようと、なにも20分毎
に一個食べる必要はありませんが、私の場合、一回のロングで5〜6個は食
べていました。あの、種をしゃぶりながら走るのが何とも言えず、元気が出
るんですよね。いまは「練り梅」などという、便利なものもありますね。

3.糖質はどのくらい補給すればよいか?

…昨年の日本臨床スポーツ医学会の教育研修講演で、札幌医科大学の岡野五
郎先生が「スポーツと栄養-パフォーマンス向上と栄養」の中で、この糖質
摂取のことについて興味深い内容を話されています。

a,運動前1時間以内はフルクトース(果糖)がグルコース(ブドウ糖)よ
りも優れている。

これは、グルコースを取るとインスリン分泌が高まり、体脂肪分解が阻害さ
れ、筋肉での脂肪酸酸化が抑制されるので、筋グリコーゲンへのエネルギー
依存度が高くなり、その結果レースに向けて蓄えておくべき筋グリコーゲン
の減少を促進するからです(参考文献1)。

一方、フルクトースのインスリン分泌刺激能はグルコースの1/5程度と少な
く、筋肉での脂肪酸酸化が抑制されにくいので、脂肪をエネルギーとしてよ
り有効に使えます。さらにフルクトースは肝臓でグルコースに変換され、
徐々に血中に放出され、特に運動後半での血糖維持に貢献することがわかっ
ています(参考文献2)。

さて、運動中の摂取は負荷される運動強度により、糖を選択するのがよいで
す。

b,中〜高強度(VO2max70%以上)ではグルコースの方がフルクトース
よりも効果的。

これは、強度が強いとカテコールアミン分泌が高まり、多少グルコースを投
与してもインスリン分泌が抑制されているからです。このため、吸収および
酸化速度の速いグルコースの方が、筋肉により効率的にエネルギーを供給で
きます。

c,軽〜中強度ではフルクトースの方がグルコースよりも効果的。

これはカテコールアミン分泌が低いからで、グルコース摂取ではインスリン
分泌が高まり、前述の理由で持久性という点では適しません。

実際のレースではこれらの基礎知識をもとに、複数の糖類を組み合わせるの
が良いでしょう。私の場合はショートではスポーツドリンクのみ、ロングで
はバナナが主で、あとはエイドにある果物を食べていました。

4,分枝鎖アミノ酸の補給は有効か?

…最近、V○○Mやア○ノバ○タルといったアミノ酸飲料が出回り、新しも
の好きのトライアスリートを中心として(?)もてはやされているようで
す。かくいう私もV○○Mは味が自分の好みに合っていることもあり、愛飲
しておりますが…。
 
両者の宣伝で、特にV○○Mは脂肪の利用を促進する…等うたわれています
が、この辺りは会社の方が説明してくれた方が分かりやすいでしょう。
 
ちなみに、分枝鎖アミノ酸を補給することにより、脳内セロトニン
(5-HT)の産生を間接的に抑え、中枢性疲労を抑えることができるという
効果はあるそうです(参考文献3)。私はV○○Mを飲んで疲れにくく感じ
るのはこちらの効果ではないかと思っております。

5,その他、有効な補給物はあるか?

…クエン酸はグリコーゲン分解系酵素(ホスホフルクトキナーゼ)を阻害
し、グリコーゲン分解を抑えます。乳酸の過剰産生を抑えたり、分解を効率
よくするともいわれています。糖と一緒に摂取すると、肝臓・筋肉でのグリ
コーゲン合成をより促進するとのことです。ちびちびグリコーゲンを使いな
がら脂肪を効率よく燃焼させるには、クエン酸の摂取が有効でしょう。ちな
みに梅干しにはレモンの2倍のクエン酸が含まれているそうです。

こんなところでしょうか。結局私は水、薄目のスポーツドリンク+レモン果
汁、バナナ、果物、梅干しを使用しているのが現状です。雑誌をにぎわして
いる各種補助栄養食品は、いろいろありすぎて私にはよく分かりません。

ちなみに、お薦めの本は以下の3つです。

・「勝つためのスポーツ栄養学-東ドイツの科学的栄養補給」 Rolf
Donath/Klaus-Peter Schuler著 南江堂 1900円

・「スポーツの栄養・食事学」 鈴木正成著 同文書院 1450円

2冊とも、学生時代に愛読しました。少し内容的には古いので、V○○Mや
ア○ノバ○タルなどは出てきませんが、特に鈴木正成先生の本は読みやすく
理論的なので好きでした。また、

・「四訂食品成分表」女子栄養大学出版部 570円

も詳しく勉強したい方にはすすめます。(ただ、いずれも7〜10年前の本な
ので、現在ではもう少し値段が上がっているかもしれません。)

私なんかより、ゲストの中に栄養学ではもっと詳しい方がいらっしゃると思
います。ぜひ、お話を聞かせて下さい。

参考文献
1. Foster,C.et al.:Effect of preexercise feedings on endurance
performance. Med.Sci.Sports 11:1-5,1979.

2. Okano,G.et al.:Effect of pre-exercise fructose ingestion on
endurance performance in fed men. Med.Sci.Sports Exerc 20:105-109,1988.

3. ランニングの基礎と実践〜トレーニングとパフォーマンスの科学〜 
p126-129、p241-242 、文光堂


学会準備で忙しいはずなのに、こんなに書いてしまいました。自己嫌悪です…。


笠次先生の話に付け加え



キャフィア通信600号の笠次先生のお話にちょっとだけ付け加えさせてくだ
さい。おそらく読者の方も水分などの摂取量が多いと感じられた方々も多い
と思います。しかし計算してみると、この程度摂取する必要があります。

ところが、特に初心者のうちはおそらく、これだけの量をレース中に摂るこ
とは不可能ではないかな?とも感じています。運動中は交感神経が優位に働
いており、腸管の蠕動運動は抑制されています。逆に食後などにリラックス
しているときは副交感神経優位の状態で、腸管の動きは良好です。したがっ
て、軽度の運動強度の時には飲んだり食べたりしても胃から腸へと蠕動運動
で送られても、それ以上の運動強度の時には腸管蠕動が止まってしまい、
摂った物が胃で止まり、それでも食べたりしていると吐いたりして、よけい
に電解質の喪失を来したりする事があります。

これは自律神経の問題ですので、体の慣れの問題と思っています。ですから
練習中も飲み物を摂る訓練?練習?が必要です。実をいうと私も一度だけ玄
海トライアスロン(8月で暑いのです)で、「脱水を起こさないように」と
水分補給をがんばりすぎて、ゴールの後で吐いてしまい、しばらく気分不良
となったことがあります。走ってる最中にも胃にたまっている感じはあった
のですが、脱水が怖くて続けて飲んでいたところ、やってしまいました・・
・。

腸管の運動なども個人差が大きいので、やはり練習して自分のパターンを早
く見つけることが失敗しない補給法だと思います。こればかりは他人の意見
に左右されないで、自分のポリシーを貫いてください。

最後に、私見ですが、私はバランスのよい食事が一番の補給食と思っていま
す。チームの仲間からどんな食事をしたら良いか聞かれたら「料理の上手な
奥さんをもらいなさい」と返答しています。その点は、辻本さんは、すでに
知っておられたようですね?それとも野生のカンですか?

大分の吉里でした。

#辻本から

私は中学生の時から真夏のサイクリングで走りながら飲む、食
べるという事になれているので、いつでもどこでも食べられます。また食べ
ず(ときには飯を食う金が無く食べられず)に走ることにも慣れています。
水さえあれば10時間は動き続けられます。

ところが運動中に食べたり飲んだり出来ないという人が結構いるものです。
今まで何が原因で、出きる人と出来ない人がいるのかわかりませんでした
が、これが《自律神経の問題》というのは驚きです。

空腹では走れないという人もいますが、こちらはどうでしょうか。空腹より
満腹の方が走りにくいと思うのですが、空腹の嫌いな人は満腹を選ぶようで
す。これも自律神経なのでしょうか。こういう人は食べ物を口にすると、ま
だ胃にも届いていないうちに元気を回復します。

《バランスのよい食事が一番の補給食》これには同感です。独身生活の長い
人ほど補給食をうんと取らないと走れない傾向が見られます。一人分の食事
を作るのは手間ですし、材料も冷蔵庫で古くなった物が多く、どうしてもビ
タミンが不足しがちです。

「料理の上手な奥さんをもらいなさい」は本当かも知れません。では女性は
どうしたらいいんでしょう。「料理の上手なご主人をもらいなさい」となる
んでしょうね。

私の場合は「過ぎたるは及ばざるがごとし」、肥満への道をまっしぐら・・

#笠次さんから

大分の吉里さん、ありがとうございました。吉里さんのおっしゃるとおりと
思います。補足していただき、感謝しております。結局一番大事なのは、個
人個人に合った(独りよがりという意味ではなく)補給をバランスよく行う
ことなんでしょうね。

>独身生活の長い
>人ほど補給食をうんと取らないと走れない傾向が見られます。一人分の食事
>を作るのは手間ですし、材料も冷蔵庫で古くなった物が多く、どうしてもビ
>タミンが不足しがちです。
>
>「料理の上手な奥さんをもらいなさい」は本当かも知れません。

辻本さんの意見にも賛成です。私は結婚5年ですが、仕事で練習量が少なく
なっているにも関わらず、試合でそれなりに結果が出せ、学生時代より体格
が良くなり、比較的体調も崩れにくいのは、ひとえに妻のおかげと感謝して
おります。うちの冷蔵庫は小さく、3日以上の買い置きは不可能です。いつ
も新鮮なものを食べるという点で、これも良いのかもしれません。


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